【輝きのヒント】vol.3 ニセコ和菓子工房『松風』 渡辺 麻里さん(前編)

SAVON de SIESTAのブランドコンセプトである「毎日の暮らしに、ココロがホッとするひとときを贈る」。この特集「輝きのヒント」では、このコンセプトに共鳴する暮らし方や仕事をしているステキな方々をご紹介してまいります。

今回はSAVON de SIESTA直営店シエスタラボの
企画展限定和菓子やワークショップなどでもおなじみ
ニセコの森の中にあるニセコ和菓子工房『松風』の渡辺麻里さんのご登場です。

SAVON de SIESTAの15周年企画では、シエスタラボでお買い物いただいた
お客さまにお渡しする特製の紅白饅頭も作っていただきました。


15周年記念に渡辺麻里さんがつくってくれた、紅白饅頭(創業記念日から100個限定でお配りしました)。

また、これまでも和菓子作りのワークショップや和菓子販売など、SAVON de SIESTAとも数々のコラボをしてきた松風さんの和菓子は、目の前にした人がほっこり笑顔になるような装いと、洗練された味わいが魅力。美しいだけではなく芯にしっかりとした強さを持つ渡辺麻里さんの素顔と暮らしについて、2回にわたってお届けする特集記事。

まずは前編をお届けします(記事執筆:フリーライター佐々木理恵)。

理想通りにいかない日々から見つけた、わたしらしいスタイル
vol.3 ニセコ和菓子工房『松風』渡辺 麻里さん(前編)
– 和菓子を楽しむ暮らしを目指して –

―札幌生まれの渡辺さん。和菓子職人になりたいと思ったきっかけは?

渡辺 はじめて和菓子職人になりたいと思ったのは、幼稚園のとき。当時NHKでやっていたノッポさんの「できるかな」という番組で、ノッポさんが粘土で茶巾絞りを作っていたんです。それを見たときに、私も和菓子を作ってみたいな、と思ったのが最初ですね。

そして、小学生になったときにまたきっかけがあって。テレビでさまざまな職人さんを紹介する番組を見ていたんですが、和菓子職人が落雁を作っているのを見て、憧れを抱きました。でも、それは和菓子を作ってみたいというよりも、“密室で黙々と作業をする”ということに惹かれたのだと思います(笑)。

今思えば小さい頃から和菓子が好きだったんですよね。スーパーで売っている4個入りのお餅がとにかく大好きで。あと、羊羹を薄く切って、お煎茶と一緒にいただく美味しさを子どもながらに知ってしまっていましたね。

実家のラーメン屋さんで両親が共に働いていたこともあり、休みの日には兄弟でクレープ作りなどをよくしていて、小さい頃からお菓子作りは好きでした。友人が言うには、私は中学生のときから「和菓子職人になる!」と断言していたそうです(笑)。


ニセコ和菓子工房『松風』渡辺 麻里さんと『SAVON de SIESTA』の直営店Siesta Labo.のスタッフ。2020年8月1日、15周年を記念して撮影。

―地元・札幌の高校に進学し、和菓子店でアルバイトをはじめます。

渡辺 高校の通学路に美味しいと評判の和菓子屋さんがあって、お店に飛び込みでバイトをさせてほしいとお願いしました。お盆や年末の忙しい時期だけですが働かせてもらえることになり、飾りの葉っぱをのせたり、どら焼きのあんこをつけたりさせてもらいました。初めての和菓子作りは本当に楽しかったです。お店の社長が練り切りを作る様子を間近で見ることができたのも、とてもいい経験になりました。

―その後、大阪あべの辻製菓専門学校へ進み、和菓子づくりを学んだ渡辺さん。卒業後は高校時代にアルバイトをしていた和菓子店で働くことに。

渡辺 私が働いていたお店は、社長と奥さん、息子さんと私しかいない小さなお店でした。だからこそ、接客から和菓子づくりまでなんでもやらせてもらえて、色々なことをここで学ばせていただきました。

アヤコ 子どものころから憧れていた和菓子職人になって、抱いていたイメージと違うなと思った部分はありましたか?

渡辺 社長が私のことを「まっちゃん」と呼んでくれてとても温かいお店だったのですが、仕事が想像以上に地味過ぎて「私、選択を間違ったかな」と思いました。その頃私のまわりの友人は短大に行ったり合コンに行ったりしていたけれど、私は給料も安かったから「合コンに着ていくおべべも買えないわ」って塞ぎ込んでしまいましたね。

アヤコ 今の麻里さんのイメージとはだいぶ離れていますね。そこからなにか転機があったのですか?

渡辺 このままじゃいけないと思って、和菓子屋さんの仕事が終わったあと、夜にケーキ屋さんで販売のアルバイトをはじめました。そこで同年代の方や同じ夢を持つ方々と出会って刺激を受け、徐々に自分の気持ちを持ち直すことができました。


現在のニセコの工房で和菓子を製作する麻里さん。

―和菓子屋さんとケーキ屋さんの二足のわらじを穿く暮らしを4年ほど続けるというハードな日々を過ごしていた渡辺さん。その後、知人の紹介で料理教室のアシスタントをはじめました。

渡辺 料理教室のアシスタントは準備や進め方を学ぶことができ、結果的に現在の和菓子教室につながっているのだと思います。その後は札幌「カフェ・ラ・バスティーユ」というカフェに勤め、ケーキを作っていた時期もありました。

アヤコ レアチーズケーキが有名なカフェですよね!和菓子ではなく、ケーキを作られていたんですね。

渡辺 そう、ケーキを作っていたんです。ここでは3年ほど働いていたのですが、実は最後の方にはあんみつを作ってメニューに出させてもらっていました。この頃から個人的に和菓子を作って販売し、カフェのお客様が買ってくれるように。いまの松風に通じる活動がじんわりとはじまったのが、ちょうどこの時期でした。


ニセコの山で、ヨモギ餅の材料としてヨモギを摘む麻里さん。

―そして、現在札幌でお弁当とお惣菜のお店を営む「pippin」さんとともに、ケータリングをスタートするところから、渡辺さんの「松風」としての活動が本格的にスタートします。

渡辺 ケータリングでは「pippin」さんが食事を、私は和菓子を担当していました。はじめてのケータリングは、北海道大学の遠友学舎で開催した建築家・アールトの展覧会です。

アヤコ あ、遠友学舎ってあの新しい建物ですね!

渡辺 そう、当時はまだ新しかったですね(笑)!その展覧会には美術や建築関係の方がたくさんいらっしゃっていたのですが、「あのケータリング人たち、なんだかいいぞ?」とクチコミで広まって、北海道立近代美術館や札幌芸術の森美術館など、さまざまな展覧会でケータリングを依頼していただけるようになりました。その活動を通してお店を構えたいという気持ちが強くなり、2006年に定食と和食のお店「pippinと松風」をオープン。小さなお店でしたが、お店の中にショーケースを置いて和菓子の販売をしていました。ここから「松風」として本格的に活動がスタートしました。


定食と和食のお店「pippinと松風」は雑誌でも紹介されるなど話題に。

―数年後、お店は移転。ニセコにお住まいのご主人との結婚を機に渡辺さんはニセコに拠点を移し、ニセコから「pippinと松風」に和菓子を送って販売するというスタイルに。

アヤコ 実はこの頃、よくお店で麻里さんの和菓子を買っていたんです。当時はまだ麻里さんのことを存じ上げていなかったのですが、和菓子の裏表示に「ニセコ松風」って書いてあったので、「ニセコにある松風っていう和菓子メーカーなのかしら」って思っていて(笑)。でもすごく美味しくて、お店に行くたびにいつも購入していました。

オット ニセコに移られて「ニセコ松風」としての活動もはじまり、理想的な暮らしや仕事のあり方に近づいていましたか?


ニセコにオープンした松風さんの工房兼ショップ(現在は、この他に札幌のspace1-15にも工房兼ショップを構えている)

渡辺 ニセコに行ったばかりのときは、まだ理想通りとはいかなかったですね。専門学校生のときに「30歳までに本を出す」という目標を立てて、絶対にやり遂げたいと思っていたけれど、30歳目前だったこの頃はまだその夢を叶えられていなかったんです。2010年に「pippin」での和菓子販売を終了してニセコでの活動を本格的に始めようと思ったのですが、だれも私のことを知らないこの土地で、どうすればいいかと悩みました。ニセコにある私の工房は、場所を知っている人しか通らないようなところだったから、何か自分から行動しないとだれも来てくれないなと思って。そこで、まずは「ニセコ松風」を知ってもらうことからはじめようと、和菓子教室をスタートしました。


ニセコ松風があるニセコの風景(遠景は羊蹄山)。

アヤコ この頃はSAVON de SIESTAがまだシャトー・ル・レェーヴにお店を構えていたとき。お店のスタッフが麻里さんの和菓子教室に習いに行っているという話を聞いて、「前にpippinで出会ったニセコの和菓子が美味しくて忘れられないんだよね。ニセコって和菓子が美味しいんだね〜」なんて話したら、「アヤコさん、同じ人ですよ!」って言われて(笑)。そんな美味しい和菓子を作っている人に一度会ってみたいと思い、麻里さんにお声がけをしてSAVON de SIESTAで和菓子のワークショップをしていただきました。とても楽しかったです!

渡辺 ワークショップではうさぎのお餅や花びら餅など、季節の和菓子を作りましたよね。30歳を迎えた2011年には念願だったレシピ本「森の中にある小さな工房の和菓子レシピ(※)」を出版することができ、“なりたかった自分”に少しずつ近づくことができたかな、と思います。

※現在は『ニセコ松風のかわいい和菓子』として出版している。


渡辺麻里さんの代表的な著書(『からだにやさしい和スイーツ』『ニセコ松風のかわいい和菓子』)

―そのときの状況に合わせて、自分のスタイルを変化させながらもスタイルを築き上げて行った渡辺さん。後編は、札幌での活動やSAVON de SIESTAの愛用品についてもお話をうかがってまいります!

渡辺麻里(わたなべ・まり)さん

札幌出身。大阪あべの辻製菓専門学校卒業後、札幌の和菓子店に勤務。カフェや料理教室のアシスタント等を経て、2006年に定食と和菓子の店「pippinと松風」をオープン。2008年に二セコに移住して「和菓子工房ニセコ松風」をスタート、2015年にはシャトー・ル・レェーヴに「さっぽろ工房」をオープンし、完全予約制の和菓子教室やイベント出店などを行う。著書に「ニセコ松風のかわいい和菓子 森の工房が教える おうちでできる最高レシピ」など。

【関連リンク】
和菓子工房ニセコ松風 (公式サイト)
オンラインショップ (和菓子作り材料キット販売サイト)
15周年記念の紅白饅頭を紹介した記事
15周年記念特設サイト

◆執筆担当者紹介◆

佐々木理恵(フリーライター)。札幌市出身。札幌の出版社で雑誌編集を務めたのち、フリーライターとしてタウン誌やフリーペーパー、Web記事など、食や暮らしにまつわる記事の執筆を手がける。趣味は食べること、インテリア、キャンプ。


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